0-1.大学における研究指導の目的・目標・方針

(1) ページの趣旨


 1) 趣旨 自分の研究指導能力の向上のため。
そのために日々の教育活動を記録・反省・改善して後に活かす。
ウェブページとしてまとめることで、研究指導内容を体系化する。
研究指導内容に優先順位を付け、指導するべきことを明確化する。
助言する最適な時宜を模索する。指導内容の漏れを防ぐ
結果として自分の周りの学生さん・博士研究員(ポスドク)さんの研究・仕事レベルが上がる。
 2) 背景
  @×いい加減 いい加減な研究を見かけることがある。
自分が研究指導する大学院生からいい加減な研究結果を出してはいけない。
 (しっかりした研究を目指すべきである。Rigor in Science)
いい加減な研究をするのは研究能力低いから。
研究を始めたばかりの学生の研究能力が低いのは自然である。
研究能力を伸ばすように研究指導する必要がある。
そう書くのは簡単だが、僕には実践するのが難しい
自分の研究指導能力向上させる必要がある。
 【参考図書】
  ・科学者として生き残る方法(F. ロージ・T. ジョンストン)
   (研究には厳格であること、91-93ページ)
   (仕事は整然と、89-91ページ)
  ・Survival Skills for Scientist (F. Rosei and T. Johnston)
  A×人を潰す 学生さんを潰さない尋問しない
色々と体験・経験してきたので。
自分の研究指導能力を向上させることで人を潰さないようにする。
 【参考図書】
  ・任せる技術(小倉広)
   (時に、人は「任されすぎて」潰れる、21-26ページ;取り調べ尋問するな、170-171ページ)
  B困る人への対策 研究指導に困る学生さんがいる。
自分の研究指導能力を向上させないと困る人には対応できない。
研究指導に困る人への対策を練る。

(2) 最終的な目的・目標


 1) 目的(ミッション) 研究指導を通して学生・博士研究員に明るい未来が訪れるようにすること。
 (Bringing bright future to students and post-doctors by teaching them.)
  @明るい未来? 研究(就職)に関して本人の希望が叶うようにする。
昇級・採用・昇進(Step up)できるようにする。
大学院生・博士研究員にとって最も重要なものの一つ。
 【ステップアップの具体例】
  ・修士課程大学院生:博士課程への進学、希望の企業への就職
  ・博士課程大学院生:博士研究員・助教としての採用、希望の企業への就職
  ・博士研究員:     助教(講師・准教授)としての採用、希望の企業への就職
  であることが多い。
  A本人の意向 (さりげなく)本人に将来の希望を聞いてみる。
 ・博士課程に進学したいの?(Do you want to go to the doctor course?)
 ・博士研究員に採用されたいの?(Do you want to become a post-doc?)
 ・助教・講師に採用されたいの?
  (希望を聞くと目がキラリとする気がする。そんな瞬間を多く作れた方が良い気がする。)
 【参考図書】
  ・任せる技術(小倉広、ビジョンを重ねる、94-99ページ)
  ・理系のための研究生活ガイド第2版(坪田一男)
   (研究者になるための8つのチェックポイント、24-31ページ)
 2) 段階的な目標 周りの人から学生・博士研究員が将来有望だ(Promising)と思われるようにする。
 →高く評価されるようにする。
 →競合優位性市場価値)を上げる。
 →素晴らしい研究が出来るようにする(研究指導の後期)。
   (周りの学生さんへの研究指導が部分的に出来るようにする)
 →しっかりした研究が出来るようにする(研究指導の中期)。
 →ちゃんとした研究が出来るようにする(研究指導の初期)。
   ×いい加減な研究(improper)

(3) 初期の目的・目標・方針


 1) 目的 ちゃんとした研究が出来るようにする。
少なくともそれを目指すようになってもらう。 
   ちゃんとした研究 研究として成り立っているもの。
 →学術論文の査読基準満たすもの。
 ⇔いい加減な研究
   研究として成り立っていないもの。
   →学術論文として投稿したら掲載拒否になるもの。
 2) 目標 比較的短時間で学生・博士研究員さんの研究・仕事の基本レベル上げること。
特に研究指導の初期段階(6カ月で)
始めが肝心!
 3) 到達目標:基本 自分で伸びるサイクル(自己成長サイクル、Self-Growth Cycle)
 ・拡張PDCAサイクル経験学習サイクル)の習得
   目標設定→計画立案→計画の実行→トラブルへの対処→評価→学びの抽出→目標設定→…
   経験→内省→教訓→適用・応用→経験→…
証拠に対する思慮
時間に対する思慮(改善能力の改善)
情報交換に対する思慮
 【参考図書】
  ・OJT完全マニュアル(松尾睦)
  ・理系のための研究生活ガイド第2版(坪田一男)
   (研究のための知的時間管理法、192-203ページ)
  ・やるべきことが見えてくる研究者の仕事術(島岡要)
   (プロダクティビティーを上げる時間管理術、43-57ページ)
 4) 方針
  @基本方針 基本とその必要性から段階的オンザジョブトレーニング
嫌がられない程度になるべく多く助言する。
宿題を出す。
 「プロジェクト説明、スケジュール管理・進捗管理
 「改善すべき研究能力の説明
 「実験室紹介
 「論文読解・情報収集と研究計画の発表
 「実験のお手本(と言っておいた方が良いこと)
 「学生さんの初めての実験・試料分析
 「実験・分析のレベル上げ
 「学生さんへの研究支援:質問・宿題
 「研究のレベル上げ1:基本とその必要性(ちゃんとした研究へ)
 「研究のレベル上げ2:データ全般
 「研究のレベル上げ3:応用
  A言うべきこと ・学術論文の査読基準を満たすものがちゃんとした研究である。
時間は限られている。
自立する必要がある。
・インプットとアウトプットの能力は違う。
 「学術論文の執筆・構成」、「学術論文の執筆指導:添削と助言」、「学術論文の投稿・改訂・受理・掲載
 【参考図書】
  ・科学者として生き残る方法(科学とライティング:総論、246-253ページ、F. ロージ・T. ジョンストン)
 5) 充実した生活 成長の実感がある。
研究に進展・広がりがある。
研究生活に充実感を感じているの?Are you happy?
 →学生・ポスドクさんのやる気が持続する。

(4) 中期・後期の目的・目標・方針


 1) 研究指導中期
  @目標 しっかりした研究が出来る自立した研究者(independent)。
  A判断基準 自分の判断でしっかりした研究を支障なく遂行できる。
  B必要なこと  ・研究倫理・倫理の習得
 ・コミュニケーション能力の習得
   語学能力
 ・研究の進め方の習得
 ・専門知識の習得
   実験、分析、統計、解析
 ・自分の研究についての理解
 ・情報収集能力・情報分析能力
  C方針 学術論文出版オンザジョブトレーニング
学術論文の執筆・構成」、「学術論文の執筆指導:添削と助言」、「学術論文の投稿・改訂・受理・掲載
 【参考図書】
  ・科学者として生き残る方法(科学とライティング:総論、246-253ページ、F. ロージ・T. ジョンストン)
 2) 研究指導後期
  @目標 素晴らしい独創的な研究が出来る次世代研究者。
  A方針 研究者として自立した学生には独自性のある研究の進め方を指導する。
 ・将来ビジョン構築のための議論
 ・高度な実験技術開発能力に基づくブレークスルー

(5) 研究指導の基本軸


以下の三つのもの。
効果的・効率的でブレない研究指導を目指す。
これらがきっちり出来れば相当高いレベルに達しそう。
これらを身に付けることが必要なことを言う。
 1) 仕事の進め方
仕事の基本のレベル上げ。
研究も仕事であるという立場に立つ。
自ら伸びるサイクル(自己成長サイクル、Self-Growth Cycle)の習得。
PDCA サイクルの習得。
時間は限られている。Time is limited.
 【参考図書】
  ・ダンドリ仕事術(吉山勇樹)
  ・これだけ!OJT(中尾ゆうすけ)
  ・OJT完全マニュアル(松尾睦)
  ・任せる技術(小倉広)
 2) 研究の進め方
何が科学研究に必要か。
ちゃんとした研究・学術論文とは何か。いい加減な研究は×。
仮説検証サイクルの習得。
学術論文の書き方
学術論文の執筆・構成」、「学術論文の執筆指導:添削と助言」、「学術論文の投稿・改訂・受理・掲載
 【参考図書】
  ・科学英語論文のすべて第2版(日本物理学会)
  ・理系のための研究生活ガイド第2版(坪田一男)
 3) 研究生活の進め方・
   生き残り戦略
大学院生・博士研究員としての過ごし方、時間の使い方。
どうすると科学研究が進むのか、進まないのか。修士号・博士号が取れるのか。
就職活動を含めて何をすべきか。
どうやったら生き残れるか(How to survive)の一般則(general rule)を教える。
高圧実験・地球科学以外の違う分野の研究・仕事でも役に立つように。
 →経験を伝える。修士課程院生・博士課程院生・ポスドク・教員として見てきたもの・考えたこと。
 →ダメ学生であった自分が苦労して得たことを苦労せずに習得できるようにする。
 【参考図書】
  ・理系のための研究生活ガイド第2版(坪田一男)
  ・博士号のとり方(エステル・M・フィリップス、デレック・S・ピュー、角谷快彦訳)
  ・やるべきことが見えてくる研究者の仕事術(島岡要)
  ・大学教員 採用・人事のカラクリ(櫻田大造)
  ・パーソナル・マーケティング(本田直之)

(6) 研究指導の改善方針


 1) 研究指導の準備
十分な用意周到な準備をする。
備えあれば憂いなし。Well prepared means no worries.
研究指導能力の改善は緊急でない重要な事項である。
研究指導能力の改善に時間を割く。
 2) 自分の教育経験
   基本方針 日々の教育活動を記録・反省・改善して後に活かす。
経験を知恵に変える。
偶然上手くいったことを再現できるようにする。
上手くいかなかったことに対策を立てる。
   改善の因果関係 学生さん・博士研究員さんの変化に気を付ける。
やる気が向上したり望ましい行動が増えたら原因を考える。
原因とその背景をウェブサイトに記録する。
改善の因果関係の解明に時間を割く。
 3) 他の方の教育経験
大学教員・博士研究員・大学院生との教育経験の共有研究指導方法の改善についての議論
教員の方に大学生・大学院生・博士研究員の研究指導についてご意見を聞いてみる。
 (例:街人に話しかけずにドラゴンクエストをやるのは無謀だ。)
 4) 本・ウェブサイト
本・ウェブサイトを読めば人材育成の仕方・研究指導法が書いてある。
大学における研究生活の送り方についての本。ビジネス書(人材育成の仕方)。
読まなきゃ、損。
研究指導・人材育成を題材にした本を買う。ウェブサイトを見る。
英語の研究指導についての本も買う。
研究指導・人材育成のやり方を取り入れる(オンザジョブトレーニングなど)。
 5) 立場
  @成長に協力する 学生・博士研究員のためになるように、成長できるように教える。
 (I believe what I am saying will help you.)
味方だと思ってもらえるような言葉使いをする(英語でも、Help, Improve, Skills, Suggestion など)。
  A相手からの評価 多くの学生は自分を利用しようとしているだけかどうかは分かる。
 (I do not want to push you.)
教えている側は教わる側から評価を受けている
 (学生は中退することも出来る)
 (博士研究員は他の所へ博士研究員として異動できる。)
面接者は面接を受けている人から評価を受けている
 (面接を受けている人は合格した後でも進学を辞退できる)。

(7) 研究指導後期の具体的な目標:学術論文の出版


 1) 目標 この学生・博士研究員がウチに来てくれたら嬉しいなぁと思われるように。
 (この学生・博士研究員がウチに来られたら困るなぁ…と思われないように)
 ↓
学生・博士研究員の研究・仕事レベルが優れていると客観的に評価できるものを世に出す。
学術論文の掲載。
直接的に高い評価に結び付く。
 2) 共著論文の出版 データの取り方を覚える。
ちゃんとした研究とは何かを伝える(いい加減なことをしたらダメ出しをする)。
 3) 学術論文の出版
  (第一著者)
  @全体 ちゃんとしたもの。しっかりしたもの。優れているもの。
  人事権を持つレベルの研究者が学術論文を読めば著者の研究レベルは評価できる。
  学術論文の査読者・編集者が高いレベルの研究が出来ていると評価した場合、
 将来の受け入れ研究者・上司になることもある。
  基本・基礎を重視した研究指導をする。
  A着眼点 読者に「なるほどな〜」と思われると印象が良い。
この人となら建設的で面白い議論が出来そうと思われるように。
指導教員のお陰である場合もある。その場合でも学生・博士研究員は出来る人だと感じる。
  B実験の質 この人がウチに来てくれたら嬉しいと思われるように。
内容のしっかりしたもの。
 ×用語の使い方が間違っている。基礎を疎かにしているという印象を与える。
   基礎を疎かにしている人が応用が出来るだろうか?私はそうは思わない。
他の人が真似したくても出来ないものだとより良い。
 (実験技術開発にはお金と時間が掛かることが多い)
 (リスクを承知した上でやる。リスクマネージメント・リスク管理能力が必要。)
  C論理構成 論点が分かりやすいと印象が良い。
学術論文の執筆・構成」、「学術論文の執筆指導:添削と助言」、「学術論文の投稿・改訂・受理・掲載